引き続きブシ先生の思い出から。前回の記事で、Pantsula(パンツーラ)の初めてのソロチャレンジがうまくいかず、僕が「何をやってもナイスじゃないように見えるんだ」って言った直後のこと。ブシ先生がこう言ったのを先ほど思い出した。
「モジャ、お前は鏡のために踊る必要はないんだぞ」
キーッ!こしゃくな言い回ししよって。どうせ僕は鏡の前でいらん緊張してる間抜けだよ!…負け惜しみはさておき、「鏡のために踊るな」っていうフレーズを聞いて、フラッシュバックしたことがあった。
自分のために踊るということ
南アに到着して2,3日後のこと。現地のダンサーたちはみんなおしゃべり好きで、何時間でもしゃべっている(みんな男)。その多くはダンス談義で、そばにいる僕にもたまに水を向けられることがあった。その日は、直前までサッカーがパンツーラに役に立つみたいな話をしてたように思うが、唐突にブシ先生が僕に言った。
「モジャ、自分のために踊れ。そうしないとイマジネーションもクリエイティブさもストップする。いいか、人のために踊ろうとするな。自分のために踊れ。自分のために踊っていれば、人が勝手にお前を見つけてくれるから。俺たちも自分のために踊ってて、モジャに見つけてもらった。そして、俺たちのことをシェアできている。それはすごく幸せなことなんだ。アパルトヘイトのときから俺たちはずっと踊ってきた。あの時代はモジャが来ようとしても会うのは無理だっただろう。でも、踊っていたから、今こうして見つけてもらえた。」
それを聞いて目頭が熱くなりつつ、ちょっと納得がいくことがあった。現地でパンツーラダンサーに会って、その踊りを見ていて不思議に思ったこと。それは、他人の目を気にしてないということだった。僕のような初対面の外国人が見物しに来て、ときどきカメラも向けるような、そんな状況なのに、僕のことを気にするそぶりがない。踊り自体に集中している人が多いと思った。
パンツーラの特徴
パンツーラをしばらく踊っていて分かったんだけど、彼らが人の目を気にしないというのはダンスの特徴がちょっと影響している気がする。その一つは遊びであるということ。もう一つは細かいリズムを意識しながら踊るダンスであるということだ。
①遊びである
アルプス一万尺を想像してほしいんだけど、パンツーラは、あれとちょうど同じぐらいのテンポで細かい動きをやり続ける。それも、手を使うときは手だけ、足を使うときは足だけ、という風に、体の一部だけを使うシーンが多い。向かい合ってやることもあるし、隣の人と息を合わせながら踊るという点も似ている。というか「ほぼアルプス一万尺じゃん」みたいな振りが存在する。笑 アルプス一万尺は遊びだ。人に見せるためじゃなく、一連の動きを楽しいからやるもの。見てても楽しいけど。だから、それと似ているパンツーラも動きに集中しやすい感じがある。
②細かいリズムを意識する
パンツーラは音を細かくとって踊る。感覚としては、体全体で振動(貧乏ゆすりみたいに)しながら、それに合わせて頭の中で振りそれぞれの強調ポイントをフレーズとしてしゃべっている感じ。たまに実際に合いの手を入れながら踊る。アルプス一万尺をやっていれば分かると思うけど、歌を歌いながらの方がキレが増すし、むしろ動きに集中できる感じがある。パンツーラも、リズムを歌えるようになると、動きも別物になる。これは不思議なことだけど、音に集中せざるを得ないとか、人と合わせなきゃいけない、みたいな制限のある環境の方が動きの質が上がるという現象は、パンツーラに限らずよくあると思う。
好きな動きをしよう
子供の手遊び。そして貧乏ゆすり、しゃべること。あと、歩くこと。パンツーラは、僕らが普通にやってきたことの延長にある。最近クラスを始めて、パンツーラを教えてみたんだけど、パンツーラは基本の動きがかなりトリッキーで、一回や二回のレッスンでキャッチアップするのは難しい。だからベーシックを教えるのは結構難儀したんだけど、音にどう合っているのかのデモをし始めたとたん、みんなの顔が輝くのが分かった。ああ、「これ」が楽しいんだ、と伝わった気がした。
どんなダンスにとっても、その動きのどこが魅力なのかという感覚を持つほど大事なことはないと僕は思う(諸説あるやつです)。かっこいいでも楽しいでもいいけど、その動きをわざわざやるからには、その動きが好きだという気持ち。それが持てれば、まずはそこだけ楽しむように、自分にプレゼンしてあげるように踊ればいい。他人は関係ない。
だから、まずは見て、やってみて、パンツーラを好きになれるかどうかが大事だ。変な動きだらけだし。パンツーラは、もしかしたら、以下のような人に向いているかもしれない。
・アフリカの太鼓音楽でわくわくする人
・合いの手を入れたい人、音を出したい人
・破壊衝動を抱えてる人
・突拍子もない動きをしたい人
・子供みたいに遊びたい人
やっていればそのうちオートで踊れるようになる。それこそ、アルプス一万尺のように。そしたら、もう楽しみしかない。
さあ踊りましょ!ラーンラランラン….ヘイ!
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