Amapiano体験記 2018~2022


南アフリカで8年ほど前に生まれたAmapianoという音楽がある。
数年前からその勢いはアフリカ大陸だけでなく欧米や日本にも及び、もはやダンス音楽の一大ジャンルになっている。

自分が南アフリカにパンツーラを最初に習いに行った2018年あたりはちょうどアマピアノ黎明期(の後半ぐらい?)だったので、そこから数年間のアマピアノ体験記を書いてみようと思う。

2018年 – アマピアノと出会う

南アフリカでのアマピアノとの出会いは2018年10月、パンツーラというストリートダンスを習いに現地のダンスカンパニーに滞在したレッスンの中だった。

ホッツォという先生がアマピアノ好きで、よくかけていたのだ。

ちなみに当時の先生お気に入りのMIXはYouTubeにも上がっているAvenue Sessionというシリーズ(特にこのvol.5)で、自分も耳タコになっている。

このMIXをプレイしているのがKabza De Smallというプロデューサーで、アマピアノの第一人者だ。MIX中でもPiano Kingと言っているので、この頃は既にそういう立ち位置っぽい。

ただ、当時の僕はこれが一大ジャンルであるということも、ましてやアマピアノだという名前であることは知らず、「カブザっていう人の曲気持ちいいな」ぐらいの認識だった。

以下は振り返ると意外と残っていたアマピアノ記録。

■現地のクラブでアマピアノっぽいもので盛り上がっていた様子

■葬式の夜にかかっていたアマピアノで踊る子供たち

■年越しパーティーの様子。Umshoveはヒット曲で、よく踊られてた印象。

2019年~2021年 – 日本でアマピアノに親しむ

そして日本に帰ってから、「南アフリカの音楽かかるから!」とお誘いされた浜松GQOMパーティーでDJのmitokonさんと知り合い、彼女が「アマピアノがヤバイ!」と発信しまくっていたことでようやくジャンル名を知ることになり、「これってアマピアノっていうジャンルなんだ」と認識した。

そしてここから数年は関連のパーティーやDJさんのSNS、MIX(特にmitokonさんaudiot909さん)を通してアマピアノの名曲、アーティストをどんどん知って行った。

DJさん達の活動やパーティーがなければアマピアノをここまで知れることはなかったと思うので、とても有難かった。

2021年~2022年 – 二度目の南アフリカ訪問

すっかり自分の中でも「アマピアノが今来てる!」という認識が育った状態で2021年の10月、再度南アフリカへ訪れた。

目的はパンツーラをまた習うことだったが、環境的には前回よりも社会が完全にアマピナイズされており、その衝撃は大きかった。三年前とは全く流行り方が違った。

「猫も杓子もアマピアノ」というのはmitokonさんの言葉だが、まさしくその通りで。
道行く車からアマピアノ。
道を歩いてたら家何件かごとにアマピアノ。
クラブでも焼肉レストランでもアマピアノが流れ、朝の目覚ましも誰かの流すアマピアノ。
再訪したダンススタジオではキッズ向けのアマピアノクラスが開講していて、なんならアマピアノプロデューサーも住み込んでいた。

AmapianoのAmaについて気になっていたので聞いてみたら、複数形接頭辞とのことだけど、このケースではそこから発展してIndustryという意味が本筋らしい。取り巻く環境や人を含めた、文化みたいなことかな。Amapiano is a lifestyleという言葉を聞いていたのだけど、この浸透具合と合わせてしっくりきた。

以下は記録に残そうと思って撮った動画。

Adiweleという曲を子供たちが合唱しているところ

■グルーヴがヤバいピアノキッズ。
コレオグラフ:Elma Motloenya

■原っぱのアマピアノパーティー(何かの祝日だったと思う)

■住み込みプロデューサーと、ノリノリで歌うボーカル(普段はガチガチのパンツーラダンサー)。
Katz Apollo, Thomas Motsapi

■車のスピーカーからアマピアノの流れる夕暮れの住宅地

Umlandoという曲では腰を独特に揺らすダンスが流行っていた。

以下は2021年12月~2022年2月に滞在先でヘビロテされていたアマピアノ10選。
Adiwele(ダントツ) / 66 / Iy’ntsimbi Zase Envy / It Ain’t Me(Amapiano Remix) / Liyoshona / Vula Mlomo / Maplankeng / Mudle MaliYakhe / Jola / Uzozisola

感じたこと

歌ピアノの威力

Adiweleという曲をみんなで歌っている動画もあったが、三年前より歌モノが増えており、歌うという楽しみが大きくなっていた印象。
Asibe Happyとか、「そんな合唱する曲?」っていうやつでも子供たちが大声で歌っていた。

ヒット曲をみんなで歌う原体験を子供時代に持てるなんて贅沢だな…としみじみ思ったし、歌に対する情熱の大きさを感じた。

音楽は縄張り

どこに行ってもアマピアノが流れている状況で感じたことがあって、それは「音楽は縄張りなんだ」ということ。

音楽って、近づくとだんだん大きくなるので、その家のテリトリーをとても直感的に分からせるようなところがあるのだ。
音楽が大きくなると「あの家に近づいている」ということが有無を言わさず分からされる。
車なんかもそうで、人がいる、または人が来る、という印をそれぞれ発信している。
音の大きさでそこに自分が近づいているのか/遠ざかっているのかというのが分かるので、自分の場所や移動も実感させられる。

人の存在を、目ではなく耳で、濃淡で感じさせる、有無を言わさない存在アピール
という点で、音楽にはグラデーションのある縄張りのような働きがあると感じた。

ダンスとアマピアノ

ここからは、アマピアノがまず南アフリカでなぜこれほど受け入れられ流行っていったのか
アマピアノのBPMとダンスとの関係で感じたことを書いてみる。

アマピアノはBPMがかなりカチッとしているジャンルで、特定の速さの曲に統一されている傾向があるんだけど、アマピアノで、例えばパンツーラのような細かい拍取りのダンスを踊っていて感じるのは、アマピアノはGqomやその他ハウスよりもBPMが少し遅いので「16ビートでリズムが取りやすい」ということだ。

かといって、8ビートで取ったとしてもKwaitoほどドッシリはしていない。ちょうど、ちょっと緩めのウォーキングぐらいのテンポになる。

Kwaitoだと8ビートの感覚でジャンプしてみると、かなり力を入れて飛び上がらないと滞空時間が足りないけど、アマピアノであればそこまで頑張らなくても8ビートでジャンプできる。(ピアノキッズの動画で言うと、3:58~4:02秒ぐらいの動きがそれにあたる)

大雑把に言うと、8ビートで大きく踊りたいときも省エネで踊れ、16ビートで細かい動きで踊りたいときは余裕を持って踊れる。
アマピアノはそういう絶妙なテンポに調整してあると感じる。

これらのことから、
・どんなテンションの人でも、どんなリズムの取り方でも踊りようがある
⇒たくさんの人にヒットする要因の一つになったのでは?
と思った。

他のジャンルと比べてどうなのか

これはKwaitoやGqomに比べてアマピアノが優れているみたいな話ではない。
16ビートのダンスを踊る場合、Kwaitoぐらいの遅さじゃないと映えない動きもある。
8ビートでも、Kwaitoぐらいドッシリ踊りたいときもある。
全身全霊で踊りやすいのはGqomだし、8ビートジャンプはGqomならもっと軽快にできる。

アマピアノはテンポでそれらのちょうど中間地点にポジションを取ったので、速いテンポが好きな人と遅いテンポが好きな人を分断せず取り込めるし、8ビートで取れば持久ダンスに向いているので、「クラブでずっと流し続ける」という用途にはとてもハマる、と言う風に思っている。

さっき緩めのウォーキングに合うみたいな表現も使ったけど、「歩く」というのはダンスの起源みたいなものだから、誰もが気持ちよく踊れるテンポであるというのも大げさではないと思う。

まとめ

南アフリカのダンスをやっていて、日本と南アを行き来して感じたことをアマピアノに絞って書き留めたい、という動機で書き始めたけど、一か所にまとめるととてもスッキリしたのでやってよかった。

今は前回の南ア訪問から3年近くも経っているわけで、また本国でのアマピアノの楽しまれ方も変化しているんだろうか。気になる…

ここ数年はクラブ自体から遠ざかってしまっており(ダンスは月2,3回で続けているけど)、新しい曲にもなかなか出会うことがなかったが、先日久々に遊びに行ってみたパーティーが凄く楽しくて、また曲を知りたい熱が少し戻ってきた。時々はパーティーに行って踊って楽しんで、向こうの流行を追う楽しみを持ち続けれたらと思う。