マリ到着&サール家へ
南アフリカ滞在を終え、マリに来ている。バマコでの滞在先は、7年前も泊まったサールの家だ。訪問者用のゲストハウスが併設されており、僕みたいな一人旅の人や、マリ人の旅人もよく泊まりに来る。
サールというのは、昔からのスーパージェンベドラマーだ。最小限の腕振りでスゴイ音を出す。ここ数年はBKO QUINTET(ベカオ・カンテット)というバンドを組んでいて、世界各地でのツアー予定が詰まっている超売れっ子だ。
僕のバマコでの用事は、蚊帳と抗マラリア薬を買うことと、ビザの延長手続きを取ること。そのためには1週間もいれば十分で、その後カイに向かう予定だった。
サールも家にいて、ちょうど来週の月曜にまたヨーロッパに発つという(僕が到着したのは火曜日)。僕のバマコ滞在期間とまさかの一致。一週間足らずだけど、この機会を逃すまいとサールにクラスを申し込んでみた。
デジャブ
サールはすごくいいドラマーなんだけど、何かと理由をつけて自分が直接教えることを避けるところがある。7年前も、4カ月半の滞在中、サールには10日分も習えなかったのだ。確かに、デンバフォリに出向けば数十万セファを1時間で稼ぐし(マジ)、バマコでワークツアーをやってもたくさんの白人が習いに来るような人だ。プライベート用に高額を出せない訪問者に教えるメリットはそんなにない、となるのも当然だと思う。
今回も、サールはジェンベクラスを承諾してくれたけど、一日目はケンケバが教える、という。ん?これ、7年前もそうだったような・・・
ケンケバというのはサールの仲間のドラマーで、僕が前にジェンベをずっと習っていた人だ。ただ、2つ前の記事で書いたように、マリで習ったものの多くは僕の体に沁み込んでおらず、彼から習ったこともそれほどいい思い出ではなかった。しかも、フレーズ自体はもうたくさん習っているから、その確認みたいなワークになるだろうな・・・
そう思っていた。
翌朝、ケンケバが来た。7年前と何も変わっていない。なんか、会ってみると意外と嬉しい。彼のバイクに2人で乗って、ワークの場所に向かう。
着くとまず、「何のリズムがいい?」と聞かれた。7年前、彼から習ったリズムは10種類以上ある。なんとなくスヌを選んだ。
そして・・・彼のジェンベプレーを見た瞬間の気持ち。もう、例えようがない感動が襲ってきた。
彼のスラップ。鋭く、カスッとしている。マリのスラップは爆竹とか言ってた自分を張り倒したい。そんな言葉で表せるわけがない。アコンパの、有無を言わさぬトンの音。その存在感に、ギクッとなる。僕の中ではもはや形だけになって死蔵されているフレーズが、生きてそこに演奏されている。音色、なまり、腕の動き、首の傾き、表情。全部が混ざりあって、「ケンケバ」になっている。こじんまりしたフレーズの繰り返しから、迫力と魅力が発散され過ぎていて、とても受け止めきれない。僕は、かつて確かにこれを見て、聞いたはずなのに、たくさん取りこぼした上に、7年間でめちゃくちゃ忘れてたんだ。そもそも、当時はあまりこれを「いい」と思ってなかったのかもしれない。
ワークではもちろん聞くだけじゃなく、自分でも叩いてみる。まずはアコンパ。最初はノリが掴めず、試行錯誤する。ときには口太鼓をしてみる。そのうち、許容されるレベルになる瞬間がやってくる。ケンケバの表情で分かる。そうなると、だんだん努力はいらなくなってくる。できるだけその時間を延ばすようにする。ケンケバと一緒にジェンベを叩き、ケンケバのコンゴニを聞きながらジェンベを叩き、ケンケバのジェンベを聞きながらコンゴニを叩く。このやり方だと、1時間に1,2フレーズしか進まないけど、それでいい。彼は、僕がノリを合わせられるととても満足気だ。僕が調子に乗っているときは彼の顔もほころぶ。たまに踊ってくれる。
あー
何も変わってない・・・でも本当に忘れてた。
目的変更
1回目のワークが終わってみると、長いことジェンベをまともに叩いていなかった僕の指先はやっぱりひび割れていた。右手の親指なんか、ふちに当たって血が出るという初心者あるあるをやってしまった。
そして、やりたいことが全く変わってしまっていた。カイに行くと言っていたつい1時間前までの自分がすごく遠い。いや、カイに行ったら行ったで、リズムのルーツうんぬんの探求はすごく楽しそうなんだけど。でも、今僕がやりたいのは僕のルーツで、それはケンケバのジェンベだった。今気づいたけど、彼はずっと僕のプロフィール画像で隣に立ってた。笑
ここにいれば、デンバフォリ(週末おばちゃん祭り)やコニョフォリ(結婚式)でケンケバのガチに触れて、一緒に叩くこともできる。それは幸せ過ぎる。
そんなわけで、カイは一旦保留、しばらくバマコにいることにした。ひび割れた指のために買ったカリテは完全にゲロのにおいがしたけど、そのことすら愛おしい。
なお、二日目もサールは背中が痛いそうでケンケバのクラスになった。その日の夕方、サールはデンバフォリで生き生きと叩いていた。あとはもう惰性で、ケンケバが僕の先生となることをサールも承諾してくれている。
色々と、上手くいっているような気のする今日この頃だ。
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