音楽を通じた南ア近代史ドキュメンタリー。AMANDLA!感想


ずっと見たかったドキュメンタリー映画、AMANDLA!南アフリカでの、黒人による反アパルトヘイト闘争の歴史を描いたものだ。DVDでしか見れないのでしぶっていたけど、友達に貸してもらえたので見たらめちゃくちゃ傑作だった。

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概略

アパルトヘイトとは、1940年代末から1990年代まで50年近くに渡り南アフリカで施行された、白人支配者層による有色人種差別政策の総称だ。AMANDLA!というのは、黒人が抵抗運動の中で使った「力を!」という意味の号令である。

この映画は、freedom songの作曲家の一人だったヴィシレ・ミニ(Vuyisile Mini)のエピソードから始まり、アパルトヘイト下を生きてきたミュージシャンの音楽や活動家のインタビューを挟みつつ、アパルトヘイトの始まりから60年代の抑圧、70年代後半の蜂起、90年代初頭のマンデラの釈放まで、当時の人々の生活と、歌とダンスがその中でどのような役割を担っていたかについて年代を追いながら編集したドキュメンタリーだ。

アパルトヘイトの迫害と、歌の役割

差別にも色々なあり方がある。その中でも最も凶悪なものの一つが、法律による差別だ。
素直な人に対しては「ルールだから」と自らの意志で従わせ、抵抗する人に対しては「ルールに抵触した」と機動隊で弾圧する。特定の人種に対して生かさず殺さず労働力としてだけ搾取するために、最も効率的に徹底的に管理するため、入植者たちがその知恵を極限までしぼって長い時間を使って構築してきた、史上最も大規模な差別。それがアパルトヘイトだ。

アパルトヘイト政策による迫害の内容は以下のようなものである。黒人は所定地以外で土地を購入できない「原住民土地法」に始まり、雑婚禁止法、背徳法、集団地域法など様々な法で分断され、住む場所を追われ、職種制限と賃金差別でこき使われる。逆らえば弾圧され、投獄される。黒人のみに身分証の携帯を強制する「パス法」に抗議したデモ隊は戦車で鎮圧され、100人以上の黒人が背後から撃たれ死亡した(シャープヴィル事件)。

迫害に対して、彼らは集会や闘争中、葬式など様々なタイミングで歌(freedom song)を歌って自分たちの運動の意義を広く共有し、団結した。映像で見ることで、彼らに宿っているエネルギーの大きさ、アパルトヘイトがもたらした傷の大きさ、そして歌がどれだけ彼らを支え、奮い立たせていたのかが分かる。

迫害と闘争が激化するにつれ、歌も実践的でアグレッシブになっていった。ジンバブエで訓練していた仲間から伝わったトイトイ (Toyi Toyi)と呼ばれる歌とダンスはその最たるもので、迫力がすさまじい。トイトイは銃や鞭で鎮圧してくる自警団に対抗するための、彼らだけの武器でもあった。

音楽家・活動家について

当時のことは活動家、音楽家たちのインタビューや歌で語られる。
亡命先からの再入国をずっと拒否されたヒュー・マセケラのエピソード。投獄された活動家タンディ・モディセの、絶望し出産を諦め自殺しようとした話。「私たちが何をした」というフレーズのみを繰り返すfreedom song。「自分が猫や牛だったらよかった」とこの時代に黒人として生まれた悲しみを歌う少女。
当時を知る人の話や映像が胸に迫る。

ミリアム・マケバやヒュー・マセケラ、ヴュジ・マーラセラなどアパルトヘイトの時代に生きたミュージシャンたちの演奏も、歌詞の字幕と一緒に見ることで、より一層彼らの体験や苦しみが伝わってくる。どれも美しい旋律や力強い声で表現されていて、それが周りの人や世の中を動かしただろうことが分かる。

AMANDLA!はぜひサントラも買ってほしい。ジャンル・雰囲気が多岐に渡っていて名曲揃いなので、最近ずっとローテーションしている。

パンツーラとの関連について

中でも、ヒュー・マセケラの「Stimela(蒸気機関車)」は、とてもダイレクトに鉱山労働の現実と理不尽さを歌っているということが分かった。汽車は土地を奪われた黒人が職探しのために都会に行ったり、そこから鉱山労働に連れていかれるのに使われ、愛する人を奪う象徴だったらしい。

また、ソファイアタウンが最も大規模な強制移住の対象地域となったことも語られていた。鉱山労働や汽車、ソファイアタウンは、自分の踊っているダンスであるパンツーラの重要なキーワードだ。
パンツーラの発祥地は鉱山労働者が多く住んでいたソファイアタウンであり、パンツーラの最重要ステップは汽車の走る音を模したものだ。自警団と戦うために投げるレンガを拾う動きはパンツーラの基本姿勢の元となっているのだが、そのシーンも映像に収められていた。

南アフリカでパンツーラについて習ったとき、先生たちはそういった歴史や背景についても熱心に教えてくれた。アパルトヘイトについても、言葉に加えて映像を見せたり実際にレンガを投げさせるといったことで伝えてくれて、それがすごく心に残っている。

もう一つ印象的だったのは、知人の葬式によく連れて行ってくれたことだ。AMANDLA!でも見た葬式や歌の風景は、僕が現地で見たものと非常によく似ていた。南アフリカ人の弔いの場では歌が連綿と歌い続けられてきたのだと、改めて分かった。撮らせてもらった映像があるので、良かったら見てみてほしい。

霊柩車を見送る様子(トイトイにも似ている)

埋葬の様子

受け継ぐこと、語り継ぐこと

人が死んでも歌は語り継がれて残る、ということが映画の中で強調されていた。人の話や歌は本や教科書よりもその時代の出来事や感情を鮮明に保存し、後世に伝える。ダンスにも同じような役割がある。

パンツーラの先生たちがアパルトヘイトの悲惨さと闘争について伝えてくれたり、ダンスだけでなく自分たちの生活や伝統に触れさせてくれたのは、それが彼らの踊る目的を果たすことでもあったからだと思う。

アパルトヘイトは撤廃はできたものの、不況・スラム化・所得格差・治安の問題などの大きな爪痕が残り現代まで尾を引いている。僕が現地に滞在しているときも「油断すると白人に搾取される、奪われる」という意識が彼らに垣間見えたし、つい最近僕自身も現地への敬意を示さないといけないと気を引き締める出来事があった。

そういう意味ではアパルトヘイトはまだ残っていて、自由と平等を目指す戦いも続いているんだと思う。だから、アパルトヘイトを当事者として生きてきたパンツーラのダンサーたちは、ダンスを教えると同時に自分たちの歴史を語り継ぐという役割を担っている。僕は南アフリカ人でもないしアパルトヘイトを体験した世代でもないけど、パンツーラを踊っているからにはその流れの中で活動していきたいと思った。

まとめ

借りたAMANDLAを見た後、DVDとサントラを自分用に買って、アパルトヘイトや当時の音楽家のことを次々に調べてしまった。
モチベーション的には、パンツーラとの関連だったり、内容の説得力や、歌の圧倒的なエネルギー、リズムと旋律の美しさに惹かれたというのがまずあるけど、それに加えて、リーフレットにはアパルトヘイトの歴史と登場する音楽家の足跡が一緒に収められている年表があったり、作品内でも個人の体験から大きな事件まで取り上げられているので、アパルトヘイトの実態や歴史について色んな側面から調べやすいのだ。アパルトヘイトを深く知るきっかけとしても、素晴らしい作品だと思う。

AMANDLA!はなぜかネットの配信サービスでは見られるようになっていないのでDVDを買わないといけないけど、興味が湧いたらぜひ取り寄せて観てみて欲しい。

【DVD】

【サウンドトラック】

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